最初の恋愛3
12月、冬休み前の終業式の日の放課後、いつものようにH先生に数学を教えてもらっていた。気づけば20時。辺りは暗く、職員室には私とH先生しかいなくなっていた。
「あー、もうこんなに暗くなってる!20時だ!先生遅くまですみません。もう帰らないと。」
外を見ると、ちらちらと雪が降り始めていた。当時、自転車通学をしていた私は帰り道の寒さのことを考えるとどんよりとした気分になった。
「うわー、雪だ。帰りのチャリ絶対寒いわー…。」
「寒いんだったら、スカートの丈のばせば?」
「それとこれとは関係ないの!ジャージはいて帰るし!」
ミニスカ絶対主義の女子高生としては譲れないところだ。
「じゃあ、帰るね!先生、今年は本当にありがとうございました。先生のおかげで数学が楽しくなったよ。良いお年を。」
そういって、立ち上がった。
「もうちょっと待てるなら送ってくけど」
・・・え?今なんと?
「え、先生送ってくれるの?車で?」
「うん、黒田さんちの方向、帰り道だからね。もう暗いから心配だし。」
「は、はい…じゃあ、お願いします。ありがとうございます…。」
それまで、職員室でしか話したことのない先生。その先生が自分の車に私を乗せてくれるということは、とてもドキドキすることだった。学校ではない、先生のプライベートという未知の世界に踏み込むような気持ちだった。
帰り支度をして、職員昇降口のところで待っていると、先生が降りてきた。施錠をすると二人で駐車場へ歩いていく。息が白い。先生の後ろを小走りでついていく。なんだかいけないことをしているような緊張感と寒さで頬が上気する。
先生の車は紺色のミニバン。副顧問をしているバスケ部の遠征にも使えるようにと大き目の車を選んだと言っていた。
「はい、乗って」
そういわれて少し躊躇した私は、後部座席に乗り込んだ。なんだか、助手席は特別なような気がした。
帰りの車の中、先生が音楽をかけた。聞き覚えのあるイントロが流れる。
「先生、ミスチルが好きなの?」
「うん、好きだよ。アルバムも全部持ってるよ」
また一つ、私しか知らない先生が増えた。
乗っていた時間は15分程度だったと思う。この、いつもと違うプライベートな先生との時間がうれしかった私はたくさんしゃべり、先生も楽しそうにそれを聞いてくれていた。あっという間の帰り道だった。
家の近くで、車を止めてもらい降りる。
「先生、送ってくれてありがとうございました。運転気を付けてね。また、年明けからよろしくお願いします」
「うん、じゃあ、また来年ね。おやすみ」
先生に会えない、2週間の冬休みが始まる。さみしい気持ちでいっぱいだったけど、最後に最高のサプライズをもらった私は幸せな気持ちで玄関のドアを開けた。
「…あ、先生の車に忘れ物しちゃった」
当時、教師とメールやLINEをするような時代でもなかったので学校で話す以外に連絡手段はなかった。しかも、忘れたのは上履き用のスリッパ。
「ま、年明けでいっか」
この忘れ物で、また先生への想いを強くする出来事が起きるなんて思ってもみなかった。