黒田さんの恋愛記録

東京在住アラサーOLが過去の恋愛の記憶をもとに恋愛物語を書きます。

最初の恋愛18

先生の、私への想いを知ったその日から、私の中で何かが決定的に変わった。

それが何なのか、薄々気が付いていたが、その考えを否定しようと必死になった。でも、一度沸き上がった思いは消すことができない。

 

先生が、先生ではなくなってしまった。

普通の、一人の男性になってしまったのだ。

 

実は、先生と定期的に会うようになってから、少しずつ自分の気持ちが変化していることに目をつぶっていた。休みの日に会う先生。学校とは違う、私服の先生。数学を教えてくれない、先生。ときどき甘えたようなことを言う、先生。

私が好きな「先生」がどこかに行ってしまっている。そんな戸惑いが沸き起こっていた。

とどめを刺したのが、先生からの告白。

ああ、もう、彼は憧れの先生ではなく、私の思う通りになってしまった、ただの一人の男性になってしまった。

自分勝手だが、自分の心に嘘はつけなかった。

 

それからというもの、私は自分から先生へ連絡する頻度が下がり、会いたいとも言わなくなった。勉強に集中したい、というようなことを言って、会うことを避けた。明らかに、先生は戸惑っていた。むしろ、私が離れようとすればするほど、先生の気持ちは強くなり、先生から頻繁に「会いたい」と言われることが増えた。

私は、もう、どうしていいかわからなくなっていた。

そうこうしているうちに、先生の誕生日がやって来た。12月の初めのことだ。

先生は確実に、私からの連絡を待っているだろう。先生が、私の誕生日にそうしてくれたように、朝一番にメールが来ると期待しているだろう。何かしらの誕生日プレゼントを用意しているかもと思っているかもしれない。

でも、私にとってはすべてが重荷に感じられた。

自分で蒔いた種なのに、収穫の時を迎えて、急に投げ出したくなってしまった。

その日、私は先生へ連絡しなかった。夜、先生から電話があった。私は、面倒だと思う気持ちと申し訳ないと思う気持ちで、何コールも置いてから電話を取った。

「あおいちゃん、元気…?」

「うん…、あの、先生誕生日おめでとう。連絡しなくてごめんね…バタバタしてて…」

「うん…」

長い沈黙が続く。先生からそれ以上言葉は出てこなかった。私も、話すべきことが見つからず何も言わなかった。

「あの…、じゃあ私今から勉強するから、切るね」

「あ、うん。邪魔してごめんね。体に気を付けて頑張ってね」

なんとも後味の悪い電話が終わった。

12月は受験生にとって追い込みの大切な時期だ。正直、先生との恋愛に浸りきっていた私はろくに受験勉強をしていなかった。でも、この状況を変えるには、何とか合格して東京という新しい場所へ移るしかないと思った。

それまでの遅れを取り戻そうと、必死に勉強をした。だが、その合間も先生からの連絡はやまない。

「あおいちゃん、勉強がんばってる?」

「あおいちゃんのことが気になって仕方ありません」

「勉強で困ったことがあったらいつでも連絡して」

「あおいちゃんのことをいつでもそばで応援してるよ」

私はもう気が狂いそうだった。…いや、この狂気は自分が生み出したものだ。

 

12月24日。クリスマスイブ。その年はちょうど日曜。

私は、最後に先生への気持ちを確かめるために先生と会うことにした。まだ、私の好きな「憧れの先生」がいるかもしれない…。そんな願いを込めて会った。先生に、「スーツを着てきてほしい」とお願いをしたのも、そんな願いからだった。

「おはよう、久しぶり」

スーツを着た先生が紺色のミニバンに乗って現れた。