黒田さんの恋愛記録

東京在住アラサーOLが過去の恋愛の記憶をもとに恋愛物語を書きます。

最初の恋愛15

「先生、数学教えて」

これが、私の切り札だった。先生と生徒という関係を維持しつつ、先生に会う方法。だけど、いくら何でも異性の教師と生徒が学校外で会うことはリスクが高いということはわかっていた。最初のデートとこの前の雨の日、その2回だってもし他の生徒や先生、保護者に見つかっていたら、何かしら問題になっていただろう。

先生は、とてもまじめな性格だと思っていたから、その2回は例外で、これ以上会う理由もない私に会ってくれるかどうかは賭けだった。

でも…

私には、自信があった。先生は、必ず私に会ってくれると。

雨の日の再会から数日後、数学を教えてほしいとメールを送ると、すぐに返事が来た。

「それなら、次の日曜はどうかな?」

拍子抜けするほど、あっさりとOKの返事が来て正直びっくりした。そして、少し先生を心配してしまった。正式採用された大事な時なのに、こんなリスクをとって大丈夫なのかな…。だけど、もう、私の気持ちは止められない。

「やったあ。先生、ありがとう。日曜日、よろしくお願いします」

 

そこから、先生と私の奇妙な関係が始まる。

先生と生徒、友だち、恋人…

そのどれにも当てはまらない、特別な関係。

ほぼ、毎日メールのやり取りをして、月に2度ほど日曜日に数学を教えてもらうという口実で2人で会って一日過ごした。

会う日には、先生が車で2時間ほど離れた新しい学校の近くの自宅から私の家の近くまで迎えに来てくれる。私はもはや慣れたように、紺色のミニバンの助手席に乗り込む。ひとしきり合わなかった間に起った他愛もないことをしゃべり、一緒にミスチルを歌って、県内中をドライブした。初めのころは真面目に数学を教えてもらっていたが、だんだんそれもなくなり、普通のデートになっていた。

「ねえ、先生は学生の頃彼女とかいなかったの?」

「いや、まあ、そんな感じの人はいたけど…。あおいちゃんは、彼氏とかいないの?」

「え、それ私に聞く?」

「あ、えーと…あおいちゃんは、一人の人に一途になれるタイプ?」

「一途かあ…まだ、付き合ったことないからわかんないかなあ」

仲良く話はしていても、恋愛の話になるとお互いぎくしゃくした感じになっていた。だって、私が好きなのは先生だから、しょうがない。

そんな、不安定だが淡く楽しい日を送っていた6月、私の誕生日がやってきた。

朝一番に先生からメールが届く。

「お誕生日おめでとう。とうとう18歳になっちゃったね。大人であるあおいちゃんだけど、この一年は少しわがままに過ごしてもいいんじゃないかな!子供でいられる時期は短いんだよ」

10歳年上の先生と過ごしていて、大人の世界に足を踏み入れていたと思っていた私は、先生に子供扱いをされて少し不満だったが、誕生日をしっかりと忘れずに連絡をくれたことがとてもうれしかった。

そして、その週末いつものように会うと

「はい、これ。誕生日おめでとう」

そういって、プレゼントを渡された。今までもらったこともないような、高級そうな箱。

「え、なんだろう…」

箱を開けると、小さな宝石のついたネックレスだった。

「あおいちゃんの誕生石だよ。ムーンストーンっていうらしい」

ムーンストーン。宝石言葉は「愛の予感・純粋な愛」

男の人からアクセサリーをもらうのは初めてだった。私は、なんと言っていいかわからず。小さくお礼を言った。

キーホルダー、ムーンストーンのネックレス、そして先生と交わす言葉たち。

私の中に先生との大切なものがどんどん増えていく。

学校の生徒や先生には決して見せないであろう、その笑顔。私だけが知っている先生。私の毎日は、もう先生でいっぱいになっていた。友達との会話も、家族との時間も、勉強も、遊びも、すべて先生との時間の前では些末なことのように思えた。

18歳の私の狂気は、先生をも変え始めていた。