最初の恋愛19
スーツ姿の先生に会うのは久しぶりだ。
私は、静かに、でも必死に探していた。私の憧れの先生を。
ぎこちない会話。
以前なら、あふれ出すように言葉が出てきていたのに、言葉を発するパワーが全くわかない。
「あおいちゃんのお望み通り、スーツ着てきたよ」
もう、何も話してほしくなかった。これ以上、私の先生を壊すのはやめてほしかった。
「そ、そうだね…ありがとう」
そっけない私の態度を前に、先生も何も言わなくなった。
…なんで、また会ってしまったんだろう。
早く帰りたい気持ちでいっぱいだった私は、上の空で適当に話をしながら帰るタイミングをうかがっていた。クリスマスムードの賑わいが、余計に憂鬱にさせた。
昼過ぎに郊外のショッピングモールで映画を見た後、今までなら夜ごはんまで食べて帰っていたところだが、明日用事があるからと言って早々に家に帰してもらった。
私は確信した。もう、二度と私の憧れの先生は戻ってこないことを。
年末年始を迎えて、いよいよ受験も大詰めとなった。最初の難関、センター試験を控えた前日、携帯が鳴った。
「明日、センター試験が終わった後会えないかな?」
センター試験は2日間に渡って行われるが、その初日が終わったら会いたいという先生からのメール。それを見た瞬間、怒りすら感じた。教師のくせに、試験を邪魔する気なのか。もう、先生の暴走は止められない。
そのメールは無視して、なんとか2日間のセンター試験を終えた。結果は、当然だが良くなかった。この1年、ろくに勉強していなかったのだから当たり前だ。
その後、先生からの連絡は少しずつ減っていった。追い詰められている感覚になっていた私は、安堵して2月の本試験の勉強に打ち込んだ。
どうしてもこの試験に受かって、この狭い田舎を抜け出して、東京へ行きたかった。先生との関係を断ち切るためにも、私は東京へ行きたかった。
2月の終わり。東京での本試験を終えて、地元へ戻った私は、先生に試験の出来を報告する短いメールを送った。先生として試験のことを気にしていることへの少しの配慮。少しして、返事が届く。
「試験、お疲れ様。たびたびメールしてごめん。試験の出来が気になって仕方がなかったんだ。」
その下に信じられないくらい長い余白があった。何度も下へ行くボタンを押す…
「この一か月間、黒田あおいのことばかりを考えていました。この前にも言ったけど、気持ちの整理ができていません。ただし、わかっていることはまだ『好き』なことです。こんなことを言っても、困らせるだけってことはわかってはいるんだけど…これで最後にするので聞いてください。この一年間、いろいろ足を引っ張ってごめん。好きになればなるほど自分勝手であったと思います。本当にごめん。許してくれとは言いません。ただ、理解してくれたらと思います。最後といった以上、このメールの返事はいりません。本当に楽しい思い出でいっぱいです。ありがとう。そして本当にさようなら。」
終わったんだ…
ついに、終わったんだ…
かっこいい、憧れの先生を好きになって、振り向いてもらおうといろいろと頑張って、やっと告白したら振られて。でも、先生の気持ちがだんだんこちらに向いてきて、ついには私のことを好きになってくれた。
なのに、どこかで歯車が合わなくなって、ピュアで淡い恋愛が、気づいたら狂気に満ちた黒く重いものに変わってしまった…
先生が、悪かったんじゃない。多分、私が幼すぎたのだ。
それでも、
それでも、この恋愛を糧にして、東京で新しい生活を始めよう。
少しずつ前向きになり始めていたころ。
再び、携帯が鳴った。
電話だった。