黒田さんの恋愛記録

東京在住アラサーOLが過去の恋愛の記憶をもとに恋愛物語を書きます。

最初の恋愛4

H先生に会えない冬休みは退屈だ。早く学校が始まればいいのに、そう思いながら日々を過ごしていた。部活もしていなかった私は、毎日気乗りしない塾に通っていた。通信授業をテレビで見るだけで、特に面白くもない時間。「H先生が教えてくれればもっと楽しいのになあ」と、気づけばH先生のことばかり考えていた。「今、何してるんだろう?」「学校には出勤してるのかな?」「どんな家に住んでるんだろう?」「休みの日は何してるのかな?」そんなことをぐるぐる考えて、妄想を膨らましていた。

「先生に会いたいなあ」

そう思いながら、塾へ自転車を走らせていたとき「プップー」とクラクションが聞こえた。急な音に驚いた私は一瞬自転車を止めた。すると、目に入ったのは、あの紺色のミニバン。

「スリッパ、忘れてたでしょ、はい」

運転席の窓から、H先生が私のスリッパの入った袋を差し出した。まさか、出会えるとは思ってなかった私は動揺とうれしさですぐに反応できなかった。一呼吸おいて、運転席の窓に近づくと、スリッパを受け取り「先生、なんで?どうしてここにいるの?」と聞いた。

「バスケ部の試合に向かってる途中なんだけど、偶然見たことある人がいると思ってね。びっくりしたけど、忘れ物渡せてよかったよ。」

「そ、そうなんだ。私もびっくりした。とりあえず、スリッパありがとうございます。試合がんばってください!」

「自分が、試合するわけじゃあないけどね。ありがとう。また、学校でね」

ただの偶然だったのかもしれない。でも、毎日想っている人と予期しないところでばったり出会うことができた。これは、もしや、運命というやつなのかも。

私の高校2年生の冬は、H先生一色に染まっていた。

待ちきれなかった新学期が始まり、またH先生との特別授業が再開された。冬の石油ストーブとコーヒーのにおいで満たされた、職員室。冷たく、寒い職員室前の自習机とふわふわのひざ掛け。すぐに冷たくなるホッカイロ。先生との日々が続くことを信じて疑わなかった私に、衝撃が走ったのは春のにおいを感じ始めた3月だった。