黒田さんの恋愛記録

東京在住アラサーOLが過去の恋愛の記憶をもとに恋愛物語を書きます。

最初の恋愛2

初めて、H先生に数学を教えてもらって以来、私は毎日のように放課後職員室に通った。H先生とのマンツーマンの特別授業は長い時は2、3時間に及んだ。教科書の問題を一つ一つ丁寧にプリントの裏に図を描きながら教えてくれる。周りの生徒が言う「冷酷で怖い」先生はそこにはいなかった。たまに冗談を交えながら、優しくわかりやすく教えてくれる先生に対して、私は尊敬の念を抱き始めた。毎日増えていく、先生の手書きのプリント。それが私にとって、世の中のどの参考書よりも素晴らしいものになった。

私の数学の成績は、めきめきと上がっていった。それまで90点台が取れればよい方だったが、100点満点を続けて取るようになるまでになっていた。良い点を取ると、先生が自分のことのように喜び、褒めてくれる。それを見ると、次ももっと頑張ろうと思う。とても良い循環となっていた。

 

普段の数学の授業は別の先生が担当のため、H先生と話すことはない。放課後の特別授業だけがH先生と話す唯一の時間。「ほかの生徒が知らない、優しくて面白い先生」を私だけが知っている、という優越感を持ち始めていた。

「黒田さんは、大学受験はどうするの?」

「私は、東京の大学に行きたいなあ。こんな田舎じゃなくて、都会で自分の力を試してみたいって思うよ。先生は、どうして数学の先生になったの?大学院まで数学科なんて学者にもなれたんじゃないの?」

「学者になろうと思ったけど、世の中には自分よりも優秀な人がたくさんいて、自分は学者は無理だなって思ったんだ。でも、数学は好きだから、その楽しさを伝えたいと思ったから教師になったんだよ。」

勉強の合間に話す何気ない話題。それで、私はどんどんH先生という人物のことを知り、もっと知りたくなっていた。同じ年代の男の子と話すより数倍楽しく、大人の世界に自分が足を踏み入れているような、そんな感覚を抱いていた。

そんなH先生との特別授業を続けていた、ある冬の日。先生への感情が一気に変わる出来事が起こった。