黒田さんの恋愛記録

東京在住アラサーOLが過去の恋愛の記憶をもとに恋愛物語を書きます。

最初の恋愛9

2回目の先生とのドライブ。初めての助手席。

車が走り始めても、私の緊張は続いていた。先生は少し笑みを浮かべたような表情でハンドルを操作している。

「黒田さん、この曲知ってる?ミスチルの昔の曲なんだけど」

そう言われて、車内に流れている曲に気が付いた。先生がミスチルが好きだと知ってから、過去のアルバムから最新のものまですべて毎日のように聞いていた。

「知ってるよ!この曲いいよね~」

そこから、緊張と戸惑いが少しづつ薄れて、いつものように会話が弾んだ。青空の日曜日の、好きな人とのドライブ。こんなに、幸せで楽しいことがあるなんて思ってもみなかった。xx市に到着するまでの約1時間、私の話は止まらなかった。先生のことをもっと知りたい。いろんなことを聞いて、いろんなことを話した。先生も楽しそうだ。

xx市についてからは、浜辺を歩いてみたり、市内を歩いたりして、海鮮料理が評判の店で昼食をとることになった。

「先生、今日はいつ頃帰らないといけないの?」

「うーん、夕方くらいかな。黒田さんは大丈夫?」

「うん、私も夕方くらいに家に帰れば大丈夫だよ」

よかった、もう少し先生と一緒にいられる。

「先生、どうして今日誘ってくれたの…?」

「だって、黒田さんがなんか寂しそうだったからね」

いたずらっぽい笑顔を浮かべながら先生が答えた。それは、単なるかわいい生徒への愛情なのか、それとも他の感情からなのか、私には判断がつかなかった。

昼食を終えると、またどこに行きたいか聞かれたので、県内でも有数の観光地である洞窟に行ってみたいとリクエストした。小さいころに一度行ったときに、やけに印象に残っていてもう一度行ってみたいと思っていた。

「そこなら、帰り道だしちょうどいいね」

洞窟につくと、先生が入場チケットを買ってくれた。閉じる少し前の時間だったからか、人影はまばらだった。

「わあ、久しぶりだなあ。わくわくするね、先生」

すっかりテンションが上がっていた私は跳ねるように洞窟の狭い通路を歩いていた。

「きゃ…」

濡れた地面に足を取られてよろけそうになる。

「危ないなあ、気を付けてね」

そう言うと、すっと手が差し伸べられた。私は、何も言わずにその手を取った。

先生と繋いだ手。意識せずにはいられないけど、努めて意識しないようにしながら洞窟を見て回った。その間の30分間、その手は繋がれたままだった。

帰り道、すでに辺りは暗くなりかけていた。この時間が終わってしまうことを考えると、私は自然に無口になっていった。そして、ずっと考えていたのは、先生に想いを告げるなら今日しかないってこと。

紺色のミニバンはまた朝と同じ駐車場にたどり着いた。閉店間際で車は数台しか止まっていなかった。何も言わず、なかなか降りない私に先生は何も言わなかった。私は葛藤していた。でも、勇気がなかった。

「先生、今日はありがとう。また、メールしてもいい?」

「もちろん。いつでもしてきていいよ。電話でもいいよ」

別れの挨拶を交わすと、紺色のミニバンを背に家に向かって歩みを進めた。また、自分に負けた悔しさで、あたりの景色は滲んで見えた。

自分の部屋に戻って、携帯を横目にじっと睨みながらミスチルを聞いた。そして、気づくと、電話をかけていた。そう、先生に。

「もしもし、先生?」

「どうした?またなんか忘れ物した?」

「ううん、でも、先生に言い忘れたことがあるんだ」

「うん?」

「先生、あのね、私、先生のことが好きです」