黒田さんの恋愛記録

東京在住アラサーOLが過去の恋愛の記憶をもとに恋愛物語を書きます。

最初の恋愛7

H先生へ想いを伝えることができなかった私は、抜け殻のように春休みを過ごした。当たり前に過ごしていた、先生との日々はあっけなく終わってしまったのだ。

先生がメールアドレスを書いてくれたプリントを眺めては、ため息をつく。

「辛くなったらいつでも連絡してきていいから」

そう、先生は言ってくれた。辛い。でも、なんて連絡してよいのか全くわからなかった。

始業式の日。みんながクラス替えや新しい担任の発表に一喜一憂する中で、私は行く先もわからない高校生活の再開を暗い気持ちで迎えていた。そんなとき、新しい担任がHRで告げる。

「明後日に、3月に異動された先生たちの離任式があります」

私は顔を上げた。そうだ、まだチャンスが残されている。言おう、明後日必ず。先生にきっと想いを伝える。

離任式の日。体育館には全校生徒が集まっていた。時間になると、移動した教員たちがぞろぞろと体育館のステージに上がった。2週間ぶりに見るH先生。いつもと変わらず、すました顔で生徒を見ている。その姿を目にしただけで、私はなんだかもう泣きだしそうだった。

想いを伝える、と心に決めてはいたものの、本当に伝えられるかはわからなかった。先生がいつまで学校にいるのか、すぐに帰ってしまうのか。二人で話す時間が取れるのか。何もかもが予測不能だった。

祈る思いで、放課後職員室へ向かった。

いた。先生がまだいる。

あとは、先生と二人で話すことができるか…。先生は副顧問をしていたバスケ部の生徒に囲まれていた。どうやら部活の時は、教室で数学を教えているときとは違う一面を見せているようで、意外にも部員生徒たちと盛り上がっていた。全然話しかける隙がない。私はただ茫然と立ち尽くしていた。

その時、先生と目があった。先生がこちらに歩いてくる。

「黒田さん、久しぶり。勉強がんばってる?」

「先生に数学教えてもらえなかったから、あんまり進んでないよ」

さみしかった、会いたかったと言いたいのに、いじけたような言い方になってしまった。

「先生、もう帰るの?」

「うん、この後予定があるからもう帰るよ」

「そっか…。数学教えてもらおうと思ったのに残念だな」

周りに人がたくさんいる中ではこれ以上の会話はできなかった。

「新しい学校でもがんばってね、先生」

そうして、またも何も告げられず、私は最後のチャンスを逃した。先生はまた、私の前から去っていった。

でも、今回ばかりはこのままでは終われない。

帰宅後、あのプリントを手にした。そう、先生のメールアドレス。

「先生、今日はあんまり話せなくて残念でした。もっと話したいことがあったのに」

勢いで、一方的なメッセージを送って、いたたまれなくなりベッドに携帯を投げた。初めてのメール。返事が来るか来ないか、来てもどんな返事なのか、どうしようもなく緊張し始めた。送らなければよかったかも…そう、思い始めたときに、携帯が震えた。メールの返信が届いた。

「日曜日、朝10時、迎えに行きます」